スプリングカメラ


 ボタンを押すとスプリング(バネ)の力で自動起立して撮影状態になるカメラのこと。畳むと小さく携帯性に優れた折畳み式カメラ(Folding Camera)のうち、スプリングで自動起立するものを日本やドイツでは特に「スプリングカメラ」と呼んでいます。アメリカではSpring Cameraという呼び名は通用せずこのwebで何度も指摘を受けました。Folding Cameraです。右の絵は6x9cm判スーパーイコンタです。(提供 金公氏、Thanks.)。
 戦後を通して数多くのスプリングカメラが作られましたが、殆どのカメラは1930〜60の30年間に集中しています。セミ判(6x4.5cm)、66判(6x6cm)と69判(6x9cm)などが代表的な画面サイズです。
 6x9cm判は中判カメラの中では最大のサイズです。現在の市場にはこのサイズのカメラが少なく、中判カメラの殆どは6x7cm判までと言ってもいゝでしょう。
 現在、主流をなす35mmカメラの画面サイズは24x36mmでライカ判とも呼ばれています。画面の縦横比は 1:1.5 で中判では6x9cmサイズがこの比率になります。6x7cm判と6x9判を撮り比べてみると両者は「似て非なるもの」、すなわち全くの別物であることが分かります。6x9cmサイズで撮った写真をみると何かホッとするのは、日ごろあまりにもライカ判の縦横比に慣れているからでしょう。
 6x9cm判カメラが少ない現在、蛇腹カメラの中で実用になるもの、実際に写せるものを集めて撮影を試みたレポートがこのWEBのスタートでした。


 実用になる6x9cmスプリングカメラの必要条件

連動距離計が付いていること
 6x9cmカメラの標準レンズは大半が105mmです。深度が浅いため、撮影の目的によっては正確な距離合わせのできるレンジファンダー(RF=連動距離計)が必要です。RFの付いている6x9cmカメラは非常に少なく何百とあるスプリングカメラの中のほんの一握りです。ピント合わせに連動しない単独距離計付きカメラでも近距離撮影には威力を発揮します。昔、距離計のないカメラでの近距離撮影は巻尺を使いました。この場合の撮影距離はレンズの先端からではなくフィルム面の位置から計ります。

コーティングがある方が望ましい
 カラー撮影を考慮するとコーティングは必要条件です。しかし昔のレンズは構成枚数が少なく極端な悪条件でない限りカラー撮影にも十分耐えます。

二重撮影防止になっていること
 撮影枚数が少ないので(8枚撮り)、一枚のカットと言えども無駄にはできません。この二重露光防止(警告)機構がないと、二重写しをしたり、時には空白のネガを作ってしまいます。

シンクロ接点はあれば便利
 必ずしも必要ではありませんが、スプリングカメラはレンズシャッターなので、有れば室内の記念撮影にも安心ですし、日中シンクロなどの高度なテクニックも楽しめます。M接点だけのものはストロボには同調しません。

アクセサリーシューが欲しい
 ストロボ撮影などにあれば便利です。シューのある6x9cm蛇腹カメラは非常に少なく終焉期の製品に若干見られます。

右手シャッター
 現在のカメラは、左手フォーカス、右手シャッターが標準で右利きの人には便利にできています。6x9cmスプリングカメラに「右手シャッター」のものは少なく、有ってもカメラホールドが悪く、撮影の操作性の点で必ずしもベストではありません。

ファインダーが見やすいこと
 当然の条件ですが、残念ながらどの6x9cmスプリングカメラもファインダーに関しては落第です。フレーミングの正確なものは少ないと言っていいでしょう。


 残念ながら以上の条件を満たす6x9cmスプリングカメラは皆無です。6x6cm判ではツァイスイコンのスーパーシックス(戦後製品)、マミヤ6、スーパーフジカ6、セミ判ではパールなどがほゞこれらの条件を満たしています。



 105mmレンズについての考察

 6x9cm判蛇腹カメラのレンズは大半が105mmF3.5〜F6.3に集中しています。105mmという長さは6x9cmサイズ(56x88mm)の対角線の長さです。35ミリカメラ換算では43mmレンズの画角に相当します。
 一般に35ミリカメラのレンズは焦点距離が長くなると望遠(テレタイプ)と呼ばれるレンズ構成になります。レンズ鏡胴やバックフォーカスを短くするのがその目的ですが、このテレタイプはイメージサークルが小さいという欠点があります。35ミリカメラでは必要以上のイメージサークルは要らないのでこれでいゝわけです。6x9cm判蛇腹カメラに用いられている105mmレンズは長焦点レンズと呼ばれるレンズ構成で、バックフォーカスは焦点距離にほゞ一致します。このレンズ構成はイメージサークルが大きく中には6x9cm用のレンズでも4x5インチをカバーするものさえあります。ライカの有名なエルマー9cm、135mmやヘクトール135mmはこの長焦点タイプと呼ばれるレンズ構成です。35mmカメラ用レンズでありながら6x9cmや45判のレンズとして十分使えることはよく知られています。ライカではこの巨大なイメージサークルのほんの一部分、中心のおいしいところだけを使っているので、名レンズの誉れ高いのもうなづけます。
 蛇腹の105mmレンズはどれも6x9cmサイズをゆうにカバーするイメージサークルを持っているので画面四隅の画質低下や周辺光量不足をあまり気にする必要はありません。但し、カメラを落としたり、不用意にいじって、レンズボードとフィルム面の平行度が極端に失われていると片ボケを起こしたり、像の乱れが出ることもあります。また105mmくらいのレンズになると深度が浅いので、絞りでカバーできる範囲が少なくなります。また、よく調整された蛇腹カメラでも、深度の浅い分35mmカメラのつもりで写すと失敗することがあります。同じ深度を得るには35ミリカメラより2絞り以上絞らなければなりません。
 蛇腹カメラはよく写らない、という場合の多くはカメラブレに原因があります。35mmカメラでも105mmレンズを付けるとカメラブレには気を使うものです。6x9cmカメラの多くは105mmレンズが付いています。カメラを開いた先端にはレンズの付いた重いシャッターアセンブリーがあり6x9cm蛇腹カメラの多くはホールドが悪くなり、深度が浅い分絞りを絞るのでシャッターはスローになりがちです。また、シャッターレリーズは機構上リンクやレバーを介した遠隔操作によるものもあり35ミリカメラのようにスムーズではありません。すなわちカメラブレの条件が揃っています。私は初めてスーパーイコンタを手にしたとき、早朝、近くのお寺に出向き、境内を1/10〜1/25秒でスナップしました。ライカではこれくらいのスピードにもカメラブレには自信があったのです。結果は、明らかにカメラブレと分かるカットもありましたが何となくあまいカットが多いのです。実はみんなカメラブレで、一見それとは思えないくらいの微妙なブレもありました。これで、テッサーは大したことないと結論を出していたら、その後の蛇腹カメラの行脚遍歴はしなくて済んだかも知れません。以後、少なくともテスト撮影のときは必ず三脚を使うようにしています。また可能な限り高速シャッターを使うようにしています。




 テッサーレンズと蛇腹カメラ

 蛇腹カメラについているレンズはツァイスイコンのカメラに限らず、高級機には必ずといっていいほどテッサーが付いていて、シャッターはコンパー系です。

テッサーF値カメラシャッター備考
75mmF4.5PiccoletteDial set CompurCarl Zeiss Jena
75mmF3.5Super Ikonta ASynchro CompurCarl Zeiss Optpn / Coating
75mmF3.5Super Ikonta ASynchro CompurCarl Zeiss / Coating
75mmF2.8Weltur 6x6Compur RapidCarl Zeiss Jena
75mmF2.8Ensign Auorange 220Compur RapidCarl Zeiss Jena
75mmF3.5Super Ikonta IVSynchro CompurCarl Zeiss / Coating
80mmF2.8BaldaksetteCompur RapidCarl Zeiss Jena
80mmF2.8Super Ikonta BSynchro CompurCarl Zeiss Opton / Coating
105mmF4.5Super Ikonta CCompurCarl Zeiss Jena
105mmF4.5Iha 6CompurCarl Zeiss Jena
105mmF4.5Super PonturaCompurCarl Zeiss Jena
105mmF4.5Patient EtuiCompurCarl Zeiss Jena
105mmF4.5Welta SolidaCompur RapidCarl Zeiss Jena
105mmF3.8Weltur 6x9Compur RapidCarl Zeiss Jena
105mmF3.8Super Fecta 6x9CompurCarl Zeiss Jena
105mmF3.5Ikonta CSyncro CompurCarl Zeiss Opton / Coating
105mmF3.5Super Ikonta CCompur RapidCarl Zeiss Jena
105mmF3.5Super Ikonta CSyncro CompurCarl Zeiss Opton / Coating
105mmF3.5Super Ikonta CSyncro CompurCarl Zeiss / Coating




 コンパーシャッター
 コンパーシャッターは1903年に設立されたドイツのミュンヘンにあるDeckel社(Friedrich Deckel, Munich)の製品です。高級シャッターの専門メーカーで数多くのカメラメーカーに供給しています。設立と同時に空気抵抗を利用した有名なCompoudシャッターが発表されました。1912年にDial set Compur、1928年には高級カメラの定番になったCompur(Rim set)、1935年にこれを改良したCompur Rapidが発売されました。最後のSynchro Compurは1951年の製品です。スプリングカメラは1930年代初めに出現したカメラです。初期のツァイスイコンの高級機やフォクトレンダーの蛇腹カメラには例外なく1928年のCompurが採用されていました。二眼レフのローライフレックスは最後の28Fまで全てのモデルにコンパーシャッターが採用されています。シャッターの表にF.DECKELの名板があるカメラも多く、そのためカメラの名前が"DECKEL"と思っている人も少なくありません。Compurは日本の文献では殆どコンパーと表記されていますが、中にはコンプールと発音する人もいます。日本の古墳は周りから出土する須恵器(すえき、土器の一種)によっておおよその年代が判るそうですが、カメラは付いているシャッターを調べることでいつ頃のものかを大まかに判断することができます。
 下の写真のシャッターは0番のCompur Rapidですが、CompurでもSynchro Compurでも操作は同じです。00番という更に小さいシャッターが使われている6x6cm判やセミ判カメラもあります。4x5カメラではもっと大きい1番シャッターが使われることもあります。Compur RapidはCompur(3枚羽根)をベースに高速化を図り5枚羽根を採用して従来の高速1/250秒(00番は1/300秒)を1/400秒(00番は1/500秒)にしたものです。
 シャッターは時計と同様、内部はギヤの塊で大変精巧にできています。レバーなどが動かないときは無理な力を加えず、原因を探すようにしましょう。長期間使わないときはシャッターをレリーズしてチャージされていない状態で保管します。
 何十年も使われず放置されたカメラは、中の油やグリスが固まってスローが粘り正確なスピードが出なかったり、中には途中で止まってしまうものもあります。どのスロースピードにセットしてもシャッターが高速に動くときは中のグリスが固まってクロックワーク(スローガバナー)が作動しなくなっているのが原因のひとつです。オーバーホールか分解クリーニングが必要です。スロースピードが粘っていても1/25秒以上の速度ではクロックワークを使っていないので正常に動いていれば撮影可能です。スナップでは低速はあまり使わないからです。



 蛇腹カメラのシャッターは普通セルフコッキングになっていません。セルフコッキングとはフィルムを巻き上げると同時にシャッターをチャージすることです。撮影には前もってシャッターをチャージしておく必要があります。シャッター速度をセットした後、写真のようにチャージレバーを右の方に押すとセルフタイマー用のボタンの手前でカチっと音がして止まります。これでシャッターがチャージされました。レリーズレバー(またはシャッターボタン)を操作するとシャッターが作動します。
 一般にシャッターをチャージした後、速度の変更はできますが速度によってはできないこともあります。CompurやCompur RapidはT(タイム),とB(バルブ)はチャージしなくても常に動作するのが普通です。従ってチャージしようとしてもできません。


 セルフタイマー
 殆どのコンパーシャッターにはセルフタイマーが付いています。セルフタイマーを使うときはシャッターをチャージした後、写真のようにセルフタイマー用のボタンを矢印の方向にスライドさせると、チャージレバーは更に右に動くようになります。レバーを止まるまで押すとカチっと音がして止まります。この状態でシャッターボタンを押す(動かす)とセルフタイマーが作動を始めます。シンクロコンパーでは、最高速度の1/500秒でのセルフタイマーの使用は避けた方が賢明です。故障の原因になります。

 蛇腹
 スプリングカメラのフィルムの巻取りは赤窓を見ながらフィルムの裏紙に印刷された次の番号が出てくるまでノブを回します。このシンプルなメカニズムは動作が確実で、且つ故障がありません。したがってシャッターさえまともなら写真を撮ることができます。ところがもうひとつ問題があります。蛇腹からの光のリークです。目で見える穴は論外ですが、小さなピンホールはなかなか肉眼では確認できません。写したプリントに白いモヤッとしたものが写っている場合は大抵蛇腹のピンホールが原因です。これを見つけるには、夜、ペンライトか裸の豆球(クリスマスツリー用など)を点けて蛇腹の中に入れます。電気を消して暗闇で蛇腹の部分を外から監視します。豆球(ペンライト)を動かすとどんな小さな穴(ピンホール)でも光が漏れて「そのありか」がわかります。ピンホ−ルは内、外から塗料を塗るだけで直ることもありますが、ちゃんと処置しておいた方が賢明です。蛇腹の「折」を邪魔しないような小さな黒い紙を張るのが安易な方法です。T.Kubo


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