エンサイン オートレンジ820購入記

By KBNR



     エンサイン オートレンジ820について (1)



     猛暑のころ、皆さんと銀座ピルゼンに集ったときX−PDSさんが撮った

     スナップがなかなかの写りを見せたのがキッカケで、エンサイン820と

     いう蛇腹カメラに興味を持つようになりました。



     クラカメ専科 No.33 [戦後のイギリスカメラ]に、このカメラの詳しい

     記事があり藤島氏の使用記や横川氏の解説を読む内に、レンズとメカが非

     常にユニークな造りのカメラである事がわかりました。



     記事によればレンズはテッサ−の変形で、後群が3枚張合わせの3群5枚

     構成。製版用に造られた非常に性能の良いアポ仕様のレンズとか。

     メカはレンズベットが全体的に動く構造の丈夫なボデーで、大きなダイア

     ルギアによってピント調整し、長年使用しても狂う事はなさそう。



     ボデーとレンズの良さは高く評価出来る...とにかく現在に通用する一

     級品である...などと期待を持たせる報告に、こりゃ何とかして手に入

     れたいモンだなーと虫が沸いて来ました。



                              - 続く-





     エンサイン オートレンジ820について (2)



     早速、これを2台も持っているX−PDSさんに様子を聴いたところ、6

     9らしい写真が撮れるのはスプリングカメラではコレだけというご信託。

     以前は確か、スーパーイコンタを推薦していたハズなのに..



     それはさて置きブツがなくては..と思っているとアカサカが伊勢丹に出

     すという広告が雑誌に載り、また彼にTELをして開店10時に走って欲

     しいと要請。

     店側の陳列ミスが思わぬ幸運を生んで2時間後に見事入手してくれました。

     このあたりの経緯は氏に書いて戴きますが、念願のエンサインオートレン

     ジ820が実に好タイミングで手に入ったのはうれしい限りでした。



                              - 続く-





     エンサイン オートレンジ820について (3)



     購入時のX−PDSさんの見立てによりますと、ファインダーの二重像が

     非常にクリアでレンズもきれいだからというものでしたが、確かにその通

     りで基本部分として充分なレベルでした。メカの動作もOK。

     レンズを蛇腹側からチェックしたところでは、固定リングネジを触った形

     跡がなく、オリジナルのレンズがそのまま付いているのも安心でした。



     価格は13万。計画予算は10万以下でしたからややオーバーですが、あ

     まり出ない品という事もあり、性能にも期待してOKとしました。



     ただ相当に使い込んだものらしく、外観としては中で美品ではありません。

     また圧板はフィルム走行によるかなりの磨耗痕があります。

     クラカメの場合、使い込みメカの方が(写りは)いいという説があって、

     今回はこの都合のいい珍説に寄り掛かることにしました。



     その足で氏の会社に直行。氏の2台をも交えて品評会となりました。

     エンサインのシャッターはイプシロンですが、一般的にはイマイチの評価。

     では、このカメラではどうなのか?

     早速氏の秘密兵器(スピード計測機)のお出ましです。



     測定結果:表示     指示値(1回目)  2回目

                  1           1.22                 1.23

                  2           2.16                 2.18

                  5           5.61                 5.55

                 10          10.13                10.01

                 25          28.04                28.12

                 50          49.65                50.17

                100          68.74                68.23

                250          93.41                92.22



     以上から100は60、250は100に読み代える事にしました。

     コンパーは低速/低温に弱く、プシロンは高速に弱いとも思えます。



                                                  - 続く-





     エンサイン オートレンジ820について (4)



     X−PDSさんから入手の詳し経緯が紹介されました。

     一つの店から3台もの同タイプカメラを買占めた訳ですから、この惚れ込

     み様も尋常ではありません。

     その後氏から聞いた話では、クラカメ仲間のK氏がある店で18万で見た

     とのこと。かのアポ玉神話?が値段を吊り上げている様です。



     X−PDSさんのモノクロ作例写真を見ると、どれも非常にピントの良い

     クリアな写りでした。またトーンもヌケ具合も充分で、確かに69らしい

     プリントに感心。製版用レンズというだけのことはありそうです。

     特に印象的だったのは、絞りの利く玉だなーという点。

     69では通常、近景の場合F16以上に絞らないと焦点深度は稼げないと

     ころですが、ロスエクスプレスはその深度の幅が相当に広く感じられます。

     3群5枚の構成がそうなのかどうか、一般の3群4枚のテッサーとはやや

     違った写り方をしています。



                                                              - 続く -





     エンサイン オートレンジ820について (5)



     このカメラのニュークさについて観察した結果を書いてみます。

     このモデルはスプリングカメラですから、蓋を開くまでは定型的なものです

     が、おもしろいのはピント調節機構。



     イコンタのカイルプリズム、ベッサのレール方式といった見慣れた形ではな

     く、何と蓋に固定されたレンズユニットが蓋ごと移動します。

     蛇腹は本体側に固定されていて伸び縮みしますが、蓋部は4個のラックとギ

     アによってピントノブに連結され、実にシックリとバックラッシュなく調節

     が出来ます。



     もう少し詳しく書きますと、蛇腹基の左右にボデー上下に届く細い軸があり、

     その上下両端部にギアがあって、これにラックが4個噛んでいます。

     このラックは蓋部と一体ですから、ギアが廻ると蓋全体が移動するというシ

     カケです。



     しかし、ピントノブを廻せば左側の軸は直結で回転するからいいとして、

     ドライブのない右軸はどうなるのか?ですが、ここですごいのはボデー底部

     に設けたスチールベルトの8の字掛けプーリー。(テンションローラー付)

     この機構によって右軸を同期ドライブしていたのです。



     こんな凝ったメカは初めて。真似嫌いなアングロサクソン気質が意地で考え

     た構造と身受けました。



                                       - 続く -





     エンサイン オートレンジ820について (6)



     レンズは105mm F3.8 XPRES。

     構成はテッサータイプの変形で3群5枚。

     後玉が3枚のためか普通のテッサーより僅かに暗くなっています。

     幸いなことにキズやくもりのまったくない非常にきれいなレンズでした。

     コーテイングは紫色。

     鏡胴の内周にネジ山がなくフィルターやフードは被せ形になります。



     レンズ番号表示の左に[緑、黄、赤]の色入れされた丸い3つの刻印が目

     立ちます。この印がアポ玉ではないかとされる所以。



     これは同じ頃発売されたフォクトレンダーの、ベッサ2に採用されたアポ

     ランサー105mmF4.5がレンズ鏡胴周囲に[3色のハチマキ]で表

     示されているのと似ています。

     文献によれば、両機の発売時期にスレが少ないところから見て、この3色

     マークは当時の製版用アポレンズに関する欧州協定によるものではなかっ

     たかとされています。



     オートレンジ820の発表は1957年。

     69版ロールフィルム蛇腹カメラは1910年代から1950年代の終り

     まで50年間生産されましたが、だとればこのレンズはその最終モデルを

     飾るに相応しい名玉のようです。



     実際に4ツのプリントやネガの詳細チェックによっても、そのシャープさ

     や質感描写はなるほどと実感されるところで、現在に通用する一級品とい

     う評価は当っていると思います。

     X−PDSさんの話では、スーパーイコンタはレースにならずブロニカで

     も勝てないとのことでした。

     小型な96カメラが現市場にない以上、サブとして使う位置付けなら実用

     の内に入るカメラと思われます。



     次回はシャッターとボデーについて感想します。



                                - 続く -





     エンサイン オートレンジ820について (7)



     シャッターはイプシロン。

     エンサイン社製のプロンター型シャッターで戦後の製品はシンクロ接点

     付き。セルフタイマーは持たない。

     B、T、1〜1/250まで8段階。XとF接点は切換えなしで2個。

     レンズやメカに力を入れ過ぎたのかシャッターはやや見劣りする。

     シリーズ(3)で計測した結果、購入機は100と250はスピードが

     出ていない。

     この辺りは使用頻度が低いので表示は計測値に読み換えて間に合せる。



     シャッター駆動はボタン操作を細軸とレバーを介して前の方へ伝達させ

     る。二重写し防止付き、ただしレリーズ使用の時は防止せず。



     ファイダーの良さは特記に値する。最も気に入った点は視野の中に69

     フレームを持ち、これが全視野の中でかなりの余裕を持って見えること。

     スプリングカメラでこうしたファインダーはめずらしい。

     ただし採光窓がないため暗いところではさほど機能しない。



     光学系はミラーによる二重像合致式。ミラーは動かず台の上に乗ったレ

     ンズユニットがピントダイアルのカムに連動して動く。



     このダイアルは直径が4cmもあり、軍艦部の前後に約5ミリほど出っ

     張り、カメラを握った余り指で左右に回転させる。

     回転角度は最近接から無限まで約200度くらい。実にしっくりと軽く

     気持よく回転する。



     ボデー内部に目を移す。フィルムガイドはトンネル方式ではなく、やや

     広めのレールにそのままフィルムを滑べらせる式。圧板がキツイために

     巻取ツマミが重い。特にコダックのモノクロフィルムは重い。

     気になるのは平面性。以下の方法でチェックした結果はまずまず。



     裏紙を削除したロールを正規にセットして、圧板に見立てた同サイズの

     ガラス板をフィルムに乗せて押える。

     蛍光燈スタンドをつけて、横長の光線をガラスに反射させるとガラスか

     らの直接反射とフィルムからの反射が二重に見える。

     カメラをゆっくり動かしながら、フィルムからの反射に注目してゆがみ

     具合を全体にチェックすればおよその見当がつく。

     レール方式でないにも拘らず意外に平なのはレール部が巾広のためか。



     スプール軸のあたりに66用の遮光板を内蔵。観音開閉式。

     ロール軸受けは左右上下とも独立した蝶番上にあり、ややガタがあるた

     め巻取りの最後で竹の子巻きになり易い。後に対策。

     フィルム送りは赤窓式。66と69の2個。

     重量860グラム。



     次回は問題点と対策、使い易さの工夫などを予定します。



                               - 続く -





     エンサイン オートレンジ820について (8)



     テスト撮影を繰返す中で気がついた問題点と対策、使い易さの工夫などに

     ついてまとめます。使用フィルムはトライX6本、リバーサル3本。

     何分にも30年以上前のカメラゆえ何もない方がおかしい訳で、これをど

     うにか自分なりに解決して行くのが僕なりのクラカメ道楽です。



     問題点:コマの下部附近にカブリ。(光洩れ)

     対策 :裏蓋と66用の赤窓を囲うプレス板との間にスキマがあるため。

         また赤色樹脂が接着剥がれで丸穴からズレているため。

     	     板の全周を黒テープでシールド。新しい樹脂をパンチ抜きして6

     	     6、69とも交換。



     問題点:フィルム巻取りの最後がタケノコ。巻取りが極端に重くなる。

     対策 :巻取側のスプール軸付き蝶番にガタがあり浮き上がるため。

         裏板側上下に1.5ミリのシートを接着。ストッパー役をさせる。



     問題点:撮影コマの周囲がスッキリした角枠でない。

     対策 :フィルム室の枠切りが無神経なため。

         全周に遮光用の薄板を追加。(画面比率は 1:1.5 をキープ)



     問題点:ネガ左下附近がやや片ボケ傾向。

     対策 :フィルム入り側上部のレールが約0.3ミリ沈んでいる。

         圧板の平面性も部分的に不足ぎみ。

         レール部と圧板部にスコッチテープを追加。



     問題点:軍艦部にぶつけ打痕のへこみ有り。

     対策 :裏側から叩き出し。アルミ材のため完全回復。



     問題点:シャッタースピード100、250が半分程度のスロー。

         計測値に読み替え。(修理依頼は断念)



     工夫点:ジオプトレンズ(+2.0)を軍艦内部に追加。(接着)

         かぶせ式フード用意。46Φフードの内側をテレンプ仕上げ。

           三脚ネジ穴周囲のデッパリをゴムシート追加で面一化。

             レリーズ付きグリップ追加。ホールドの不安定さを大きく改善。





     次回は使用上の注意点と総合評価を予定します。



                                                       - 続 -





     エンサイン オートレンジ820について (9)



     対策や工夫にとあれこれと手を入れてやっと満足すべき状態に到達。



     これまでのテスト撮影で感じ事を二つ。



     第1にカメラのホールデイングの悪さ。

     独特のピント合せ機構はユニークでおもしろいが、レンズの乗った大

     きな前フタ全体が、本体と別に動くというのでホールデイングに注意

     が必要。

     ピン合せの後でうっかり前フタ(レンズ)を動かす危険性がある。



     第2はブレに弱い。シャッターが左側にあるため、どうしても本体部

     だけを両手で支えなければならず、結果として先端部のレンズがブレ

     る。

     レンズ近くの蓋を支えたいところだがそれではシャッターが切れない。



     スプリンカメラではシャッターリンクの都合上、開き側とシャターボ

     タン位置は相関せざるを得ない宿命。やむなし。



     結果的に以上の2点はレリーズ付きグリップの追加で解決出来た。

     当然ながらグリップによって素速く縦横かまえが可能。

     またシャッターが右手に移ったため、左手でフタの支えが可能となり

     ブレ防止に大きく役立つ。



     最後にX−PDS氏が旧電脳に報告された[クラカメ評価表]に基づ

     き、このカメラを採点します。





        [今なお実用になる6×9スプリングカメラの必要条件]



   1 レンジファインダーであること	機種は少ない        ○

     2 レンズにコーティングがあること	戦後のもの          ○

     3 二重撮影防止になっていること	少ない              ○

     4 シンクロ撮影ができること       戦後のもの          ○

     5 シューが付いていること	    	非常に少ない        ○

     6 右手シャッター                 非常に少ない        ×

     7 ファインダーが見やすいこと     どのカメラもNG    △



     同氏の付属コメント:

    これらを満たしているカメラは皆無だが、強いて言えばエンサイン

     がトップ。イコンタは3、4がNG。ベッサは5が抜けているので

     使い難い。6は実際にはホールドが悪く、昔の設計者に脱帽。7は

     クラカメが今では実用にならない最大の理由。





     これまであれこれ見た中で、X−PDS氏のコメントには同感。

     7について、パララックス補正がないのは弱点だが、69フレーム

     枠が付いたお陰げで、他と比較すれば救われていると思う。



     ライカM3より3年後に出たイギリスのスプリングカメラ。

     タイプから来る制限の中で、やれることは全部やったというカタチ。



     レンズとメカがいいので、もう一台あってもいいカメラ。

     しかしショップ出物が極端に少ないため、簡単には手に入らないと

     思われる。



     以上で今秋伊勢丹でX−PDS氏の努力により(感謝)、やっと入

     手出来たエンサインオートレンジ820の顛末記を終ります。 



                                完

                             1995/10/12   KBNR



     【写真人電脳網】クラシック・カメラ・フォーラム から