エルマー90ミリの怪
Elmar 90mm
 エルマー90mmF4の怪 エルマー90mmF4を手に入れたのは20年以上も前の話になる。ポケットマネーで買った中古のライカIIIcにニッコール50mmF2をつけてライカの感触を楽しんでいた頃のことである。その頃、私のメインは一眼レフだったが、子供の頃からの憧れていたライカだけに、単に街をスナップするだけでも感慨深いものがあった。この頃散歩には必ずIIIcを首にかけていた。しばらくニッコールを楽しんだが、そのうちに交換レンズが欲しくなってきた。今ほどではないにしてもライカのレンズは中古でもそれなりに高い。不思議なことにエルマー90mmF4だけは人気がないのか私のボディより安いものもあった。その中でも、最も廉価な、かなり使い込まれたみすぼらしいエルマー90mmF4を買ってみた。ファインダーは安いので-イマレクトに限る、レンズと同じくらいの値段だった。両方合わせても3万円でお釣りがきたと記憶している。
 エルマー90mmF4はコンパクトで鏡胴が細くバルナックライカにつけるとカメラホールドはバツグンである。見てくれはともかく写りが素晴らしいのである。今度は90mm付きIIIcでの散歩が始まった。シャープでボケが美しい、すっかりこのレンズが気に入ってしまった。
 気をよくしてその後3本のエルマー90mmを買った。みすぼらしい最初の一本とは違い以後はなるべく鏡胴の綺麗なものを買うようにした。
 あるとき、友人がエルマー90mmを貸せというので二つ返事で綺麗なエルマーを渡した。好結果の報告を期待していたら、逆光では使い物にならんと言う返事だった。引き取ったエルマーは確かに逆光のある条件で決まって画面中ほどに白い煙のようなフレアが出る。常時ではなく光線の具合によって再現性があるのだ。酷いカットになると画面の真ん中にボアッと白い円が薄く写り込んでいる。最初に買ったエルマー90mmはこれが全く出ないから不思議だ。こうなったら他のエルマーもと、も撮り比べてみる、やはりフレアは出ている。大小の差はあっても後に買った3本は確実に出てくる。前オーナーもこんなことから手放したに違いない。こうなるとみすぼらしい最初のエルマーが貴重に思えてきた。
 ある晴れた日、近くの公園に散歩にでかけたときにレンズの先端を外してレンズだけを入れ替えて撮影してみた。ところがどのエルマーも最初のエルマーの鏡胴ではフレアが出ない、鏡胴に原因があったのだ。これはまさに内面反射のいたづらである。後の3本も安いから買ったのだが、逆にこれが安い理由だったのだろう。レンズや外観はチェックしても内側までは気にしなかった。エルマー90mmF4はレンズ構成がテレタイプではなく、先端にガラスの集まった長焦点タイプのレンズである。従って、レンズの後ろの長い空間にはガラスがなく空洞になっている。これが内面反射を起しやすい原因である。
 よく調べてみると鏡胴の内側には細い溝が切ってあり、黒い煤(スス)状の塗料が塗られている。この細いミゾの部分に新旧では明らかに違いがある。すなわち古いエルマーは溝のピッチ(幅)がミリねじのように狭く、新しい方は、これがまるで丸刃の彫刻刀で彫ったような幅をもっている。最初に買ったエルマーは製造番号から中では一番新しいレンズであることがわかった。外観は酷くても改良されたレンズである。おそらくはライツの技術者も気づいて改良したものだろう。フレアが多く出る古いレンズの鏡胴は煤状の塗料が劣化している。剥げているのではなく、ちょうど埃が付いて白くなったように見えるのだ。比較的フレアの少ないものはこの煤も黒い色を残している。残念ながら新品のエルマーがどの程度内面が黒かったのかはわからない。


 この対策には内面反射防止材を使ってみた。最近は裏に糊のついた便利なものが簡単に手に入るので鋏で切って試しに鏡胴の内側に張ってみた。あら不思議、あのフレアはどの鏡胴でも全く出なくなった。

 ソビエト製のFED2を手に入れた時の話である。付属のインダスタール 5cm F2.8 というレンズはコントラストが高くシャープでよく写る。何本か撮っているうちに例のフレアが出てきた。調べてみるとこのレンズはテッサータイプで先端にガラスが集まっている。見ればマウントに近い鏡胴の内側に約8mmの平面部分があり、ここの塗料が薄くなっている。ミゾは切られていない。ハハーンこれだな、と思い反射防止材をテープ状に切って貼り付けた。一分もかからない作業である。以後、フレアは出ていない。
 ブロニカS2はマウントの内ネジを利用するといろんなレンズを取り付けてることができるので、ブロ単レンズ(コダックの折り畳みカメラに付いている単玉レンズ)を取り付けてゲージツ?写真に挑戦したことがある。鏡胴は街の鉄工所で作ってもらった。内面に無反射塗料を吹き付けてもビタミン剤みたいなものだ。効果はあって無いようなもの、あのフレアは止まらない。これも同じ反射防止材で簡単に解決できた。

 最近ではオリンパスXAのフィルム室に張ってみた。このカメラはフレアが出るわけではないが精神衛生上好ましいからである。

 この反射防止材は今ではインターネットで買うことができる。ここには反射防止材 など修理用機材が揃っている。


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